中国ワイナリー訪問|賀蘭山東麓マルスランの先駆者「蒲尚(プーシャン)ワイナリー(Domaine Pu Shang)」〜気候変動に挑む緻密な栽培と、高酸エレガントスタイル〜

2013年初Vintageの若々しいワイナリー

世界的な注目が集まる中国屈指のワイン産地、寧夏イスラム族自治区・賀蘭山東麓。数々の名門ワイナリーがしのぎを削るこの地で、独自の哲学と際立った個性を放つブティック型中国ワイナリーが「蒲尚ワイナリー(Domaine Pushang)」です。

今回、創業者夫妻の奥様で醸造責任者を務める姜婧(ジャン・ジン)氏にインタビュー。畑の管理から醸造設備、注目のテイスティングまで、現場のリアルな姿を取材してきました。

ドメーヌ プーシャンの入り口

賀蘭山東麓でいち早くマルスランに賭けた13年の軌跡

ドメーヌプーシャンは2009年に設立された中小型ワイナリーです。2013年が初Vintage。現在の自社畑は約19ヘクタール、良年でも年間生産量は小規模に抑え、徹底して量より質のワイン造りを貫いています。

今や中国を象徴する品種となった「マルスラン(Marselan)」ですが、ドメーヌプーシャンはその可能性に最初期に着目し、賀蘭山東麓で第一陣としてマルスランの植樹を行ったパイオニアでもあります。2020年には寧夏全土で唯一となる「中国最優秀マルスラン」の栄冠に輝き、近年もデカンター・ワールド・ワイン・アワード(DWWA)など、その実力は国内外で極めて高く評価されています

畑の管理:厳しい冬を越える「埋土」と、温暖化に先手を打つ仕立て改革

冬にはマイナス15℃を下回る寧夏では、冬期に樹を土の中に埋めて越冬させる「埋土」という過酷な手作業が欠かせません。春に掘り起こした後はドリップ灌漑を敷き、春先の芽かきによって1畝あたり400〜500kgへと収量を厳しく制限しています。

特に印象的だったのは、気候変動に対する先見的なアプローチです。

近年、寧夏でも生育期の気温上昇と糖度上昇(高アルコール化)が課題となっています。これに対し、醸造責任者の姜氏は果実が過熱するのを防ぐため、仕立てを改造して結果枝の位置を地面から高く離し、地熱の影響を低減。さらに畝間への草生栽培や収穫時期の前倒しなど、テロワールを維持するための緻密な手立てを矢継ぎ早に導入しました。収穫はもちろん全量手摘み・手選果です。

品種はマルスランが主力。他はカベルネソーヴィニヨン、マルベック、プティヴェルド、イタリアンリースリング、シャルドネなどです。

ドメーヌプーシャンの賀蘭山を望む葡萄畑

醸造設備と哲学:「高酸と透明感」を生み出す緻密なコントロール

ワイナリー内には、手選果台・除梗破砕機・水切り設備から清潔なボトリングラインまで一貫した設備が整っています。発酵室には2トンから15トンまで小分けされた温度管理タンクが並び、区画やロットごとの細やかな仕込みに対応しています。

ドメーヌプーシャンのステンレスタンク

「野生酵母の個性」と「培養酵母の安定感」のハイブリッド

ナチュラルワインの不確実性(開けてみるまで分からないリスク)を避け、安定した高品質を目指す姜氏ですが、画一的な仕込みは行いません。発酵初期にはあえて野生酵母にスペースを与えて複雑さを引き出し、ブドウの状態を見極めた上で最適なタイミングで商業酵母を介入させるという、熟練のバランス感覚で発酵を導いています。

地下セラーではフレンチオーク80%、アメリカンオーク20%の比率で樽熟成を実施。トップキュヴェには新樽を、エントリーには旧樽を使い分け、樽香に覆われないピュアな果実美を追求しています。近年は素焼きのアンフォラ(陶器壺)を使った新たな熟成実験にも着手していました。

テイスティングワイン

美しい酸と洗練されたタンニンの融合というイメージのワインと感じました。

  • 紫大夫(Dunkelfelder)Dry Red 2022
  • 天時 マルスラン 2021
  • マルスラン 2021, 2022
  • 春華 カベルネ・ソーヴィニヨン 2020
  • 尚玉 Dry White (イタリアンリースリング、シャルドネ、リースリング)
  • マルスラン ロゼ 蒲桃 2024
ドメーヌプーシャン テイスティングワイン

おわりに

ドメーヌプーシャンは、賀蘭山東麓の恵まれたテロワールに甘んじることなく、科学的な栽培管理と研ぎ澄まされた美意識によって「食事に寄り添う高酸・エレガントな中国ワイン」を具現化する、新時代のクラフト・ワイナリーです。

訪問日時:2026年7月

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Edited by 新井達也
JSA公認ワインエキスパート
Vin Euphony代表

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