中国ワイナリー訪問|迦南ワイナリー(Canaan Winery)詩百篇——北京の西北、標高500mの風土が育む中国ワインの最高峰

北京から車で90分、巨大な中国ワイン産地へ

北京の北西へ車を走らせ、八達嶺の万里の長城を越えてさらに約20分。標高は北京の数十メートルから一気に500m近くまで上がります。三方を山に囲まれ、眼前には官庁ダムという北京の水源となる湖が広がる——ここが今回訪問した中国ワイナリー、迦南ーカナンワイナリー(ブランド名:詩百篇)の所在地です。

中国ワイン産地といえば、寧夏や新疆、山東などがよく知られていますが、実はこの「懐来ーホワイライ」というエリアも、中国ワインの歴史において非常に重要な産地です。新中国成立後、最初のドライ白ワイン、最初のスパークリングワイン、そして中国最初のマルスラン——すべてがこの懐来で誕生しました。

10年の沈黙が証明した風土への確信

迦南ワイナリーは2006年に設立され、アメリカを中心とする国際専門家チームによる徹底的な調査——100年以上の気候データと土壌成分の統計分析——を経て、2009年に現在地に落成しました。

驚くべきは、2009年の建設から2019年まで、実に10年間、一本のワインも販売しなかったことです。その間ずっと、風土・気候・栽培・醸造の研究だけを続けていました。2019年にようやく初の製品を市場に投入——この「十年の沈黙」は、中国のワイナリーとして並外れた覚悟と自信の表れと言えます。

風土——風洞効果が生む乾燥した栽培環境

北に燕山山脈、南に山の尾根が連なり、三方を山に囲まれたこの地は、温帯大陸性気候に属します。本来、内モンゴル方面から吹き下ろす風は平坦で緩やかですが、二つの山脈の間を通ることで「風洞効果」が生じ、風速が強まります。この絶え間なく吹く風が湿気を払い、乾燥した栽培環境を作り出しています。この気候環境が悩みの種となる高温多湿時の病害リスクを軽減してくれるのです。

背後に燕山山脈が見える迦南ワイナリー葡萄畑(埋土状態)

標高差を活かした栽培設計

もう一つの特徴は、標高差を活かした品種配置です。

  • 北側の葡萄畑:標高900〜1,000m。昼夜の気温差が大きく、白品種(リースリング、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランなど)を中心に栽培
  • 南側の葡萄畑:標高約600m。赤品種(カベルネ・ソーヴィニヨン、メルローなど)を中心に栽培

栽培面積は278ヘクタール、葡萄園を含む敷地全体では約670ヘクタールに及び、懐来産地でも最大規模を誇ります。

さらに、200以上の小区画に細分化し、品種・クローンごとに分けて栽培・収穫・醸造を行うという、きめ細かい設計が採られています。

自社育苗基地——世界でも稀な「土地から食卓まで」の自前体制

迦南ワイナリーが際立っているのは、育苗(苗木育成)から栽培、醸造、販売まで全工程を自社チームで一貫している点です。自前の育苗基地を持ち、ドイツ製の接ぎ木機械を用いて、台木(アメリカ種)と穂木(ヨーロッパ種、目標品種)を自社で接いでいます。

迦南ワイナリーの接木作業台

迦南ワイナリーの苗木育成

醸造設備——100基以上の個別温度制御発酵タンク

発酵棟には100基以上のステンレスタンクが並びます。各タンクごとに独立した温度制御システムを備え、発酵過程と速度を個別にコントロールできます。これだけの小分け発酵ができる施設は、中国でも多くありません。

パイプ一本一本が独立した制御システムに接続されており、コストは高くなりますが、異なるクローン・品種・醸造法を試す自由度が格段に高くなります。

さらに、白品種をアンフォラでスキンコンタクト発酵させる実験的アプローチも行っており、伝統的な醸造法への探求も続けています。

迦南ワイナリーのステンレスタンク

オーク樽セラー——約4,000本の樽と徹底した環境管理

地上式の樽セラーには約4,000本のオーク樽が並びます。うち約90%がフランス産、10%がアメリカ産。フランス産の空樽一本あたりの仕入れコストは約1万元(約20万円)と、決して安くありません。

セラーの温度・湿度はシステムで常時制御され、設定値の範囲を外れると自動的に温湿度調節システムが稼働します。洗浄には常時温水を使用するなど、衛生管理にも徹底した投資がなされています。

熟成期間は品種によって異なり、ピノ・ノワールは12〜14ヶ月、シラーは16〜18ヶ月です。

迦南ワイナリー木樽貯蔵

フルトレーサビリティ——一瓶ごとに遡れる品質管理

創業者が電子チップ事業の出身であることもあり、品質管理には独特の厳しさがあります。一瓶のワインについて、「どの区画で、いつ収穫され、どの発酵タンクで、どんな醸造法で、どのオーク樽で何ヶ月熟成したか」まで遡ることができます。食品安全とトレーサビリティを極めて重んじる姿勢が、施設全体の整然とした佇まいからも伝わってきました。

主要品種構成

ヨーロッパ品種を中心としたラインナップです。

白ワイン

  • シャルドネ
  • リースリング
  • ソーヴィニヨン・ブラン
  • ミューラー・トゥルガウ
  • プティマンサン

赤ワイン

  • ピノ・ノワール
  • シラー
  • マルスラン
  • タナ
  • カベルネソーヴィニヨン
  • メルロー

大量生産のワインでは培養酵母を使用していますが、天然酵母も使って技術探索しています。ピノノワールを例として7種類のクローンで別々に栽培、収穫、醸造、自然酵母の発酵、培養酵母の発酵など様々な方法で異なるワインを作って組み合わせを研究していて、近々リリース予定とのこと。ピノ・ノワール好きの興味を多いにそそります。

→詩百篇ピノノワールの試飲レポートはこちら

受賞・認定

2023年と2024年に「世界トップ100ワイナリー」に選定されました。世界中からは5000-6000のワイナリーがノミネートされた中での受賞で、これは中国ワイナリー初の快挙です。2024年には2019シラーが「James Suckling中国トップ100」の第1位を獲得しています。

テイスティング
カナンワイナリーのブランドである詩百篇6種類をテイスティングさせていただきました。詩百篇は杜甫の詩からの引用で李白はお酒を飲んだら100の詩を一気に書くという話にちなんでいます。

すべてのワイン総じて、豊かな酸と成熟度の高い果実味が絶妙にバランスしていると感じました。

  • 2021 リースリング
  • 2023 ソーヴィニヨン・ブラン
  • 2021 シャルドネ
  • 2019 ピノ・ノワール
  • 2014 テンプラニーリョ
  • 2019 シラー(ジェームスサックリングトップ100の第1位獲得)
迦南ワイナリー詩百篇テイスティングワイン

おわりに

詩百篇(迦南酒业)を一言で表すなら——「育苗から食卓まで全工程を自社で貫く、世界トップ100に選出された中国ワインの最高峰のひとつ」です。

十年間販売せずに研究に徹した執念、200以上の小区画に分けて栽培する繊細さ、100基以上の発酵タンクで個別温度管理する設備投資、一瓶ごとに遡れるトレーサビリティ——これらは、中国のワイナリーという枠を超えて、世界基準で見ても特異な存在といえます。

迦南ワイナリーレセプション

訪問日:2026年4月

中国ワインの輸入に関心がある方、中国ワイナリー現地訪問に興味がある方は、以下までお気軽にお問い合わせください。現地訪問の手配・同行・通訳・ビジネス交渉のサポートを承ります。

https://vineuphony.com/inquiry/

Edited by 新井達也
JSA公認ワインエキスパート
Vin Euphony代表

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