中国ワイナリー訪問|北京北西部の大地で醸される「職人技のワイン」ーー河北省懐来 懐谷ワイナリー フワイグゥ Huaigu Winery)

はじめに

北京から車で 2 時間ほど北西へ進むと、北の燕山山脈と南の山々に囲まれた盆地が広がります。ここは中国のワイン産地として古くから知られる「懐来(Huailai)産地」です。今回ご紹介する中国ワイナリーは、その懐来産区で 20 年以上の醸造経験を持つ曹藹社長兼醸造責任者が率いる「懐谷ワイナリー」です。

強風が吹き抜ける盆地、昼夜の寒暖差、そして− 20 ℃に達する厳しい冬。この極端な自然環境が、どのようなワインを生み出しているのか。ワイナリーを実際に訪問し、醸造設備を見せていただき、曹さんご本人とワインを酌み交わしながらお話を伺ってきました。

アルゼンチンオーナーから事業を継承

懐谷ワイナリーはもともとはアルゼンチンのオーナーが所有していましたが、2013年に中国人醸造責任者の曹氏が事業を引き継ぎ懐来ワイナリーを設立しました。

懐谷ワイナリー正面

懐来という産地でワインを造ること

懐来は中国のワイン産地の中でも極めてユニークな条件を持っています。

最大の特徴は風が強いこと。盆地特有の小気候により、常に風が抜けるためブドウの病気が発生しにくく、農薬の使用量も最小限に抑えられています。現在使用されているのはボルドー液(硫酸銅と石灰の混合液)と硫黄剤のみです。

もう一つの重要な特徴は昼夜の寒暖差が大きいこと。昼間に高くなった気温が夜に急激に下がることで、ブドウの酸が落ちません。他の中国産地では酸不足を補うために人工的に酸を添加するケースもありますが、懐来では一切の人工添加を行わず、自然な糖度と酸度のバランスが実現できるということです。

この土地で栽培されたブドウそれぞれの個性を活かした醸造

曹さんは中国のワイナリーで働きながら、アルゼンチン、チリ、フランスを訪れて醸造を学んだ醸造家です。ブドウ品種にはそれぞれ長所と短所があり、長所をできるだけ伸ばす作り方をされています。毎年ひとつひとつの品種に真摯に向かい合い、どう作るのがベストか常に研究心をもっています。小規模だからこそできるというお話しでした。

懐谷ワイナリー社長兼醸造責任者の曹蔼(Cao Ai)氏

醸造設備:見せるためではなく、醸すための設備

懐谷ワイナリーは派手な見学施設を持たない、生産重視のワイナリーです。1993 年に建てられた施設は決して新しくありませんが、それは「見せること」ではなく「醸すこと」にリソースを注いできた証です。

  • オーク樽室:フランス産とアメリカ産のオーク樽を使用。樽は 3 サイクルで使用後、表面を削って再生するリファビッシュを行い、コストと品質のバランスを追求。グレードの高いワインのみ樽熟成に回し、それ以外はステンレスタンクで貯蔵。
  • 発酵・貯蔵室:5 トンタンクと 13 トンタンクのステンレスタンクを多数設置。すべて温度コントロール機能付きで、発酵時に必要な温度を自在にコントロール可能。
  • 瓶詰めライン:ドイツ・イタリア製のライン(1 時間 1,500 本の能力)。季節性が強いワイン生産の特性上、繁忙期に集中して瓶詰めを行い、ラベルは注文に応じて後から貼ります。
懐谷ワイナリー発酵、貯蔵用大型タンク
懐谷ワイナリー貯蔵木樽

旗艦品種マルスランと特徴的な陰干し製造

懐谷ワイナリーの旗艦ワインはマルスランです。この品種でブリュッセル国際ワインコンテストの大金賞を 4 回受賞しており、これは中国全土のワイナリーの中で最多の受賞回数だそうです。

この品種を使ったユニークな醸造法として屋外風乾醸造法があります。曹さんは風乾ワインとおっしゃていました。イタリアのアマローネと同じコンセプトといえば、「ああ、あれね」と頷く人も多いと思います。ブドウを藁の上などで自然乾燥させ水分を飛ばすことで、風味や糖度、凝縮感を増加させる方法ですが、懐来の気候に合わせて短期間で実施しているとのことでした。

竜眼(Longyan):日中共通の古品種

懐谷ワイナリーの他主力品種の一つが「竜眼」です。この品種は中国と日本にまたがって存在する極めて稀なブドウで、日本の長野では「善光寺」と呼ばれています。唐代に中国(懐来)から日本に伝わったとされ、日中両国で共通の歴史を持つ品種です。

1980 年代に日本のワイン専門家が懐来を視察したという興味深いお話を聞きました。その際、竜眼の糖度が極めて高いのに 酸度が落ちていない ことを日本の訪問者は高く評価したとのことです。

テイスティングした竜眼のドライ白ワインは、青リンゴやハチミツを思わせる香りが立ち昇り、活き活きとした酸が口いっぱいに広がる、とても清爽的な仕上がりでした。

懐谷ワイナリーではなんと樹齢400年の竜眼がまだ健在とのことです。次回の訪問時にぜひ拝見したいと思います。

テイスティングワイン

以下のワインをテイスティングしました。

総じて熟度の高い果実香で高い酸と豊潤な果実味、しっかりしたタンニンが特徴のワインと感じました。アイスワインは白ブドウから作っていると思いましたが、ミカイドウから作られているとのことで大変驚きました。曹さんは葡萄だけでなく他の果実の特徴や長所を引き出した新しいワインを開発するチャレンジャーでもあります。

  • 竜眼2025 アルコール12%
  • マルスラン2017 アルコール14.5%
  • 実海棠(ミカイドウ)のアイスワイン アルコール12%
テイスティングした懐谷ワイナリーフラッグシップマルスラン

おわりに

懐谷ワイナリーを一言で表すなら——「三高(高酸・高糖・高タンニン)という天然の個性を、技術者出身の経営者兼醸造家が職人技で磨き上げた、熟成ポテンシャルの塊」といえます。

派手な見栄えはない。しかし、その中身は、風土とそこが育んだ葡萄の特徴を最大限引き出した「本物」が詰まっています。

訪問日:2026年4月

中国ワインの輸入に関心がある方、中国ワイナリー現地訪問に興味がある方は、以下までお気軽にお問い合わせください。現地訪問の手配・同行・通訳・ビジネス交渉のサポートを承ります。
https://vineuphony.com/inquiry/

Edited by 新井達也
JSA公認ワインエキスパート
Vin Euphony代表