中国ワイナリー訪問|ボルドー・ラフィットが本気で挑む、中国山東省「丘山」——ラフィット直営ワイナリー「瓏岱(ロンダイ)」
はじめに|ラフィット直営の中国ワイナリー
「あのラフィットが中国でワインをつくっている」と聞いて、ピンとくる方はまだ多くないかもしれません。山東省煙台市蓬莱の丘山(チョウシャン)渓谷に位置する瓏岱酒庄(ロンダイLong Dai)はラフィットを擁するロスチャイルド家が直接手がけたワイナリーで、しかも多い年でもわずか3万瓶と生産数を絞った希少価値の高いワインです。今回はその中国のラフィットと呼ばれる、中国ワイナリー瓏岱酒庄を、葡萄畑から醸造施設、セラー、テイスティングまで一気に巡ってきましたので、その全貌をレポートします。案内してくれたのはワイナリーの張旭さんです。

ラフィット家が中国に醸造所を構えるまで
ロンダイプロジェクトの始動は2008年。ロスチャイルド家の中国プロジェクト開始を記念して、2008年の「ラフィット」にはボトル肩部分に赤い漢字の「八」が刻まれましたが、これはちょうどロンダイが同家にとって世界で8番目の醸造所となったことを祝うものだったそうです。

最初のチームが現地に着いたのは2009年。翌年からの約2年間をかけて区画と棚田を整え、その後1年ほどかけて葡萄の植栽を開始しました。つまり現在の最古の樹齢はまだ13〜14年。まさに「若い醸造所」なのです。

そして最初のヴィンテージは2017年。樹を6年間育ててから初めてワインをリリースするという、非常に丁寧な進め方でした。現在までに瓏岱(ロンダイ)には6つのヴィンテージがあり、最新は2022年です。
なぜ寧夏でも新疆でもなく「蓬莱・丘山」なのか
中国の良質なワイン産地といえば寧夏や新疆、雲南が有名ですが、ラフィット家があえてここを選んだ最大の理由は、冬に樹を土に埋める必要がないことときっぱりコメントされました。ラフィット家は「古木」を重んじる方で、フランスのラフィットと同様に、ここでも葡萄の樹を45年、50年と育てたいという考えを持っています。土に埋める作業は樹に大きな負担をかけるため、長い期間にわたって樹を育てるために、埋土が必要な寧夏・新疆は当初から候補から外れたといいます。
残ったのは雲南と蓬莱。しかし雲南は良質な葡萄がとれる一方で交通の便が悪く、ロンダイを「グループで唯一の見学・接客対応可能な醸造所」にしたいという構想もあり、最終的に交通の便に優れたこの丘山渓谷が選ばれました。

畑の面積48ヘクタール、 nevertheless 年産3万瓶に満たない理由
ワイナリーの葡萄園は約48ヘクタール。しかし年間生産量は多い時でも「瓏岱(ロンダイ)」がわずか約2万瓶、もう一本の看板ワイン「琥岳(フーユエ)」が約1万瓶で、合計しても3万瓶に届きません。
理由は明白で、棚田により密度が低くなる上に、蓬莱は寧夏や新疆ほど夏が暑くなく日照も少ないため、一本一本の樹に十分な光を当てて確実に熟させるには、収量を抑えるしかないのです。条件の良い棚田区画では1本あたり8〜10房、弱い区画では4〜5房しか残さず、残りはすべて剪定して落とします。この徹底した収量制限が生産本数が少なくなる理由である一方、ロンダイの品質の高さを支えています。

丘山のテロワール——花崗岩、棚田、海風
丘山渓谷の土壌は主に花崗岩の風化土です。痩せていて水はけがよく、根は約1.5メートル(160cm)まで伸びます。この土壌は酒の骨格を充実させ、酸度を高め、タンニンを細やかに仕上げてくれます。
畑は急斜面を棚田状に整形。急な雨が多く表土流出を防ぐためですが、同時に棚田には日光の当たり方を制御する役割もあります。最も日照を必要とするカベルネ・ソーヴィニヨンやカベルネ・フランは、太陽のよく当たる東・南向きの斜面に植えられています。
もうひとつの隠れた強みが海から約20Kmという近さです。日没後、海風によって一気に冷え込むため、昼夜寒暖差は約10度。しかも「徐々に」ではなく「急速に」冷えるため、葡萄の呼吸作用が抑えられ、酸や香味成分がしっかり保存されます。その結果、蓬莱のワインは赤も白も美しい酸度を保つ傾向があります。
栽培品種はカベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、マルスランが中心で、少量のメルローとシラー。カベルネ・ソーヴィニヨンにはクローン169、メルローとカベルネ・フランには181と214というフランス産のクローンを使用。台木もきめ細かく、カベルネ系には4309、メルローとマルセルランには101-14など、樹勢を抑えめの台木を選ぶことで、若木期の無理な生育を抑え、将来の古木化への土台をつくっています。
なお、一部にはプティ・ヴェルドが植えられています。もともとここにはシラーが植わっていましたが、7〜8年育てた結果、蓬莱の気候では病害抵抗性が弱いことが判明し、2020年以降、接ぎ木によって順次プティ・ヴェルドへと置き換えられました。改良を続ける姿勢が印象的です。

醸造設備——棚田の個性を活かす、35基の二層発酵タンク
発酵槽室には、1基9トンの発酵タンクが計35基並んでいます。特徴的なのは、各タンクが上下二層に独立して仕切られている点です(上5トン+下4トン、あるいは上7.5トン+下1.5トンなど)。棚田を細かく区切って栽培しているため、隣接する数区画ずつを別々に発酵させたい——そのために必要な「ちょうどの容量」を、この二層構造で実現しています。しかも上下で独立した温度管理が可能です。

セラーには約2年分の生産量に相当する200以上の樽(225L)が静かに眠っています。特筆すべきは、樽が八角形に配置された「八卦の陣」のようなレイアウト。中国式的な意匠とフランス的伝統が融合した空間です。

樽は100%フレンチオーク。しかもその80〜90%は、ロスチャイルド家自身の小さな樽工房から送られてきたものです。新樽比率は瓏岱(ロンダイ)で年間35〜40%、琥岳(フーユエ)で15〜20%と、控えめに設定しています。 熟成期間は瓏岱が18ヶ月、琥岳が12ヶ月です。
ワインのラインナップ
- 瓏岱(ロンダイ):フラッグシップ。年産約2万瓶。樽熟成18ヶ月、新樽35〜40%
- 琥岳(フーユエ):セカンド的な立ち位置だが独立した個性。年産約1万瓶。ブレンドは毎年変わる
- 小木兰(シャオムーラン)シリーズ:ロゼ/干白(白)/干红(赤)。3銘柄合計年産約6,000瓶の少量生産
琥岳のブレンドは毎年その年の天候とテロワールを忠実に映すという思想で、例えば2021年はカベルネ・ソーヴィニヨン42%、メルロー24%、カベルネ・フラン19%、シラー15%の4品種。この年のワイナリー生産量は約3万瓶で、歴代最高でした。2022年はカベルネ・ソーヴィニヨンが30%前後でマルスラン、シラー、メルローがブレンドされています。
小木兰の赤は、ボルドーブレンドとしてカベルネ・ソーヴィニヨン40%、カベルネ・フラン40%、メルロー20%ほどのブレンドで、樽熟成は9ヶ月。瓏岱が「熟成を待つワイン」であるのに対し、若いうちから開いた奔放なスタイルに仕上げています。なお白葡萄はシャルドネですが、2022年からシュナン・ブランや少量のヴィオニエも植えられています。2025年のシャルドネを使った白は、オークを一切通さず、フレッシュで爽やかな仕上がりです
「国礼」——フランス大統領が贈った瓏岱(ロンダイ)
見逃せないエピソードがあります。フランスのマクロン大統領の訪中時、瓏岱2020年ヴィンテージが国家主席への贈り物として献上されました。「フランスの企業が中国でワインをつくった」という象徴的な意味合いを込めてのことです。ワイナリーではこの逸話を記念したギフトボックス(瓏岱2020年入りのセットなど)を限定500セットでリリースし、即完売したそうです。

テイスティングレポート
ワイナリーの中を見学しながらテイスティングできるユニークなアレンジでした。展示室でロゼ、セラーで琥岳(フーユエ)をグラスに注いでいただき歩きながら飲むというものです。
以下少し詳しくコメントします。
瓏岱(ロンダイ) 2022:複雑性が非常に高い。マルスラン由来の華やかな花の香り(スミレのよう)に、赤系果実のフレッシュな果実味。酸度は高めですが精緻で、タンニンは驚くほど細やかです。カベルネ・フランの弱点である「粗いタンニン」を柔らかく密な質感に仕上げています。美しく締まった印象。

琥岳(フーユエ)2021/2022:若いうちから楽しめる爽やかなスタイル。赤系果実の奔放な香り、高めの酸度、柔らかく繊細なタンニン。2022年はマルスラン由来の植物系の花の香りが特徴的です。

小木兰 ロゼ 2025(小木蘭):セニエによる製法。色づけのための果皮接触を通常6〜8時間のところ3時間以内に抑えた、サーモンピンクの淡い色調。ストロベリーとグレープフルーツピールの香りが明快で、酸と果実のバランスが絶妙。食事と合わせやすい一本です。カベルネフラン80%、プティヴェルド20%のブレンドです。

おわりに
ロンダイワイナリーの見学は完全予約制で、同一時間帯に受け入れるのは1組のみ。他の訪問者と混ざることなく、ゆっくりと時間をかけて畑・醸造所・酒窖・テイスティングを案内してもらえます。
丘山渓谷には、ロンダイワイナリーの土地や葡萄園で働く人々の多くが暮らす木兰沟村(小蘭溝村)があり、ワインの一部に「木兰」の名が冠せられています。ロンダイが来る前は貧困の村であったものが、ラフィットが中国のこの小さな村とともに十数年をかけて一緒に発展してきた——それが瓏岱(ロンダイ)です。樹齢はまだ若く、これから更に発展するヴィンテージこそ本当の楽しみなのです。
訪問日:2026年9月
中国ワイナリー訪問のアレンジ、同行・通訳、輸入商談のサポートは、以下の問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。
https://vineuphony.com/inquiry/
Edited by 新井達也
JSA公認ワインエキスパート
Vin Euphony 代表



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